鈴木1
鈴木について書く。
鈴木は小学校からの同級生で同じ町内で兄の学年も同学年、そして兄の影響で野球を始めた点も同じでもちろん小学校の野球チームも同じ、小学校のスイミングスクールも同じで中学からの塾も同じだった。
鈴木はいい奴だ。まぁ正しくはいい奴になった。
小学校低学年の時は典型的なガキ大将であり、鈴木が打ったボールを皆んなが拾いに行き、取り次第急いで鈴木に返しに行ってはまた鈴木が打つという遊びを繰り返していた。
鈴木の父親は九州の出であるため血の半分は九州だが、鈴木は九州男児完全体と言っていいほど勇ましかった。
鈴木としたのは鈴木亮平に似ているためだが、沖の目には鈴木亮平よりもっと西郷どんに映っていた。
兄と喧嘩をして怒りすぎた鈴木がゲロを吐いても向かって行く姿を見たことがある。
強靭な肉体と不屈の精神を持ち合わせ、
またドッチボールをすれば団子になっている女子達は狙わず男子だけを狙う英国紳士的な面も持ち合わせていた。
そんな九州男児且つ英国紳士の鈴木は異性からモテた。
しかし「色恋なんぞにうつつをぬかさんのじゃ」と言ってはないが、その言葉を体現したかのように野球に没頭していた。
ある日鈴木はラブレターを貰った。内容は
『○か×かで答えてください。
好きな人はいますか?
私のこと好きですか?
私と遊びに行きませんか?』
と○×質問形式のラブレターだった。
それに鈴木は全て△で返信した。
このエピソードは九州男児英国紳士の鈴木をよく表している。
鈴木のせいで我々は異性交遊の発展が2年は遅れた。
異性と話すと鈴木の「軟弱者がおるのぉ!」と言ってはいないがそういう視線を感じたし、話さないことが男でありかっこいいと信じていた。
沖は野球推薦で高校に入学し地元を離れた。入学後、異性を下の名で呼ぶ男児を見て愕然とした。
鈴木なら「軟弱者だらけじゃ!この国は終わりじゃ!」と嘆いていただろう。
友人の中で鈴木とは最も共にいた時間は長かった。1年の半分ほど鈴木の家に泊まっていた時期もある。
小学校の時は沖がキャプテン、鈴木が副キャプテンだったが、中学の野球部で鈴木はキャプテンを務めた(沖は外部の野球クラブチームに入った)。
キャプテンが相応しく人望があった。はっきりとした性格だったが、人が嫌がるようなことは言わないし、嫌いな者が不幸になることを願うより、関わらない方を選択した。人の悪口も言わなかった。逆に鈴木がいないところで鈴木の良い話が出てくるような人間だった。
鈴木は大学を卒業後消防士になった。ピッタリだ。これからも鈴木の熱い魂だけは鎮火できんのじゃ