沖伝

いつか子孫が読んでくれたら嬉しい

兄2

兄は大学進学時、東京へ出た。また沖も高校の部活の休みがあまりなく、顔を合わせることがめっきり減った。

 


家族揃って会うことは年に1回程度になった。

その年1回の日。

兄が運転席、沖が助手席、母が後部座席の配置で車に乗っていた。

 


交差点を左折する時だった。歩行者信号は点滅していたが、大学生集団が横断歩道を喋りながら歩いてきた。遂には信号が赤になったが急ぐ様子もなく、

「信号全く気にせず横断歩道渡る俺らどう?」「俺らが合わせるんじゃない。お前らが俺らに合わせるんだ」とでも言わんばかりの大学生だった。

 


すると運転席にいた兄がボソッと

「ッチ、はよいけよ…」と呟いた。

 


落雷が落ちたかのような衝撃だった。

ポケモンのデータが消えて涙を流した男の口から出た言葉とは信じられなかった。

 


後部座席にいた母には聞こえていなかった。

沖は「かあちゃん…東京は怖いところです」と心の中で母に手紙を書いたのであった。